サプライチェーン・ロジスティクスにおけるローコード/ノーコード
サプライチェーンの課題
サプライチェーンはますます複雑化し、将来の予測が困難な状況になりつつあります。製造業においては、原材料から食品サプライチェーンまでの過程において、供給元から製造を経て消費者に配送されるまでの間に、非効率な工程や手作業、欠品、リコール、偽造、不祥事など、様々な障害に阻まれます。さらに、COVID-19 パンデミックの影響で事態はさらに悪化し、食品や医療機器だけでなく製造部品に至るまで、品薄の状況が世界で数多く報告されています。
一方で製品やサービスのスピードはどんどん加速し、競争も激化しているため、ロジスティクスやサプライチェーン管理に対する革新的なアプローチが求められています。「ロジスティクス」とは、組織内における製品の流通や体系化に関連するシステムを指します。
これには倉庫保管や輸送も含まれ、「サプライチェーン」全体の一部であると位置付けられます。原材料、部品、製品の流通倉庫までの流れを可視化し、確実に追跡することは、ビジネス価値を高めるための重要なユースケースです。
ここで、サプライチェーンの重要性を考えてみましょう。北米では、食品の約 40% がサプライチェーンで破棄されています。これは食品業界だけの数字です。どの産業においても、また大手企業や製造業にとっても、サプライチェーンの効率化は全体の効率化に大きな影響を与えます。
また、サプライチェーンの問題点は多岐に渡ります。例えば、部品の供給停止や複数層の供給ネットワークにおける障害、サプライチェーン運用のための制御・セキュリティ・信頼性の欠如、可視性など様々です。
理想的なサプライチェーンとは、共通の目的に向かって進む組織の共同ネットワーク、つまり、巨大な 1 つの組織として運営される必要があります。消費者に高品質の製品をタイムリーに届けるために、全組織が一貫してバリューストリームを効率化することが目的です。
サプライチェーンの複雑性
サプライチェーンには、原材料から部品、OEM、倉庫、配送、消費者への製品供給まで、複数のサプライヤーと多くの供給プロセスが関わっており、すべての関係者が、確実な安全性と信頼性、そして一貫した情報を保つ必要があります。サプライチェーンとは、つまるところ、バリューチェーンです。バリューチェーンでは、その最も弱い場所であっても高い信頼性が保たれます。
複雑な構造の製造業では、様々な問題に直面します。その例としては、サプライヤーに関する情報のサイロ化、ミスが頻繁に発生するコミュニケーション体制、一貫した追跡ができない物流体制、サプライチェーンのパフォーマンスや応答性に影響を与えかねない、欠陥を見抜けない監視体制などが挙げられます。このような状況の中、製造業では自社製品に影響を与える情報が欠落していたり、さらには誤った情報をもとに事業を展開してしまっていることもよく見られます。
多くの産業で重要な役割を担う、倉庫とサプライチェーンの管理は、パンデミックでは深刻な脆弱性を示しました。これに対応するため、近年は、デジタル化、自動化、調達の多様化における最適化や変革に向けた動きが始まっています。
現存するビジョンの実現
これまでに挙げた課題は十分に認識されています。組織内のサイロ化だけでなく、サプライ・バリュー・チェーン全体のサイロ化も非効率な業務の主な原因の1つです。世界的にも、複数のソリューション・プロバイダー、コンソーシアムや組織などが、ビジョンを持ってグローバルなサプライチェーンの最適化に取り組もうと試みています。
その一例が、欧州連合の NextNet (Next Generation Technologies for Networked Europe) です。
(出典:『デジタル・トランスフォーメーションの負債』 コシャフィアン博士著 2021年8月発刊予定)
NextNet ではこう述べられています。「カスタマイズ、気候変動、資源の不足、技術開発の加速などは、ヨーロッパの製造・流通・物流部門にとって脅威であると同時に機会でもあります。新しいサプライチェーンや協力体制の再構築が求められています。」
まさに、その通りです。
ただし、現実問題として、できるだけ早くサプライチェーンの最適化を実現するにはどうすれば良いのでしょうか。
このブログでは、この問題を取り上げ、今すぐ活用できる実践的な解決策をご紹介します。まず、これからの未来を大きく変える、最も重要な技術トレンドのひとつを紹介しましょう。サプライチェーン・ロジスティクスのローコード/ノーコードです!
ローコード/ノーコード改革
プログラミング言語に静かな革命が起きています。この革命の中心となるモデルは、従来のようなプログラミング言語として認識されていません。また、この革命におけるプログラマーは、今までの開発者とは異なります。この正体は何かと言うと、もちろん「ローコード/ノーコード」です。
この 2 つは、同じ意味で使われることが多いです。控えめに言っても、アプリケーションの 70% 以上は、1つまたは複数のローコード/ノーコード開発で構築されるようになるでしょう。ローコード/ノーコードは偽物ではありませんが、万能薬でもありません。
もちろん課題も存在します。
それでも、革命的であり、現存の企業や新規事業のイノベーションを加速させます。驚異的な改革で、津波のような勢いで多くの組織の技術革新をすすめていくのです。現在、Java(一般的なプログラミング言語のひとつ)の開発者だけでも10,000,000人以上いると言われていますが、プログラミング言語のトップ10には「ローコード/ノーコード」の項目は存在しません。
大学でも、ローコード/ノーコードを、特別なプログラミングの学問として教えることはありません。さらに、ローコード/ノーコードに関する書籍もほとんど存在せず、プラットフォームやソリューションといった領域は速いペースで移り変わっていきます。多くの選択肢とモデルがありますが、これらすべてがローコード/ノーコードの配下にあるのです。
ローコード/ノーコードは静かな改革ではありますが、現実的で、強力なものです。
非常に大きな変化をもたらすことができる革命です。テクノロジーだけでなく、重要なのは「カルチャー」です。具体的に言うと、ローコード/ノーコードは、イノベーション、技術革新、起業家精神、そして変革のカルチャーを後押しするものなのです。企業にとっては、デジタル・トランスフォーメーションの核心部分となります。
企業の専門職の人が、開発も同時に行うことができます。これには、ローコード/ノーコードのプラットフォームを使った、ビジネスや業務アプリケーションの開発・修正が含まれます。IT 部門もローコード開発によって生産性が向上し、アプリケーションを拡張することができます。ローコード/ノーコードを利用することで、ビジネスと IT が同じ言語で会話できるようになるのです。
ローコードとサプライチェーン
サプライチェーンの課題を解決するには、核となるコンピテンシー、つまり様々な専門知識やスキルが必要となります。メーカー、倉庫管理者、物流業者だけでなく、サプライチェーンに携わる様々な人たちが、サプライチェーンを明確に把握する必要があります。
つまり、部品や商品の出荷を追跡できることが求められます。さらに、サプライチェーンをサポートするアプリケーションの変更も必要となり、ユーザー・エクスペリエンスの向上や安定した新機能の開発が迅速に素早く行われることも重要です。
最近のサプライチェーン変革の成功者、およびサプライチェーン・ソリューションのリーダーたちは、様々なテレコミュニケーション (仮想化) 技術を活用したコラボレーションが鍵だと主張しています。
新たな共同モデルが必要なことは明らかです。ただ、この新しいモデルはよりリスポンシブ、かつ自律的でなければなりません。これに必要となる促進剤を準備し、共同デザインや機能強化を継続的に提供していく必要があるのです。
共同アプリケーションを迅速かつ効率的に開発することに加えて、サプライチェーン課題の解決に重要となる 2 つの領域があります。
ここでは、堅牢な機能を実現するための 3 つのローコード/ノーコード分野を紹介します。
- ポータル向けレスポンシブ/プログレッシブ・アプリケーション開発のためのローコード/ノーコード:多重チャネル (Web、モバイル、ソーシャルなど) における生産性と開発スピード、そして変革は、まさにローコード・プラットフォームの得意分野です。
ポータルによって、複数のサプライチェーン関係者が協力できるようになるので、サプライチェーン変革には不可欠なビルディング・ブロックとなります。
ポータルのユーザー・エクスペリエンスは、すべてのチャネルにおいて、シームレスかつ一貫したサポートが提供されなければなりません。
商品やサービスが供給元から消費者に届くまでを追跡できるよう、さまざまな関係者が利用できる共同サプライチェーン・ポータルの構成が重要なことはもちろん、フォーム、ダイアログ・ボックス、ユーザー・インターフェースなど、多くのユーザー・エクスペリエンスに関する大切な要素が存在します。
したがって、Web やモバイルのチャネルに常に簡単に展開できる共同サプライチェーン・ポータルの構築と配布の生産性が非常に重要となります。
- ローコード/ノーコードのワークフローとビジネス・プロセスの自動化:サプライチェーンは、エンド・ツー・エンドのビジネス・プロセスでもあります。ローコード/ノーコードのビジネス・プロセスのプラットフォームは、エンド・ツー・エンドのプロセスをモデル化し、実行・監視・改善します。エンド・ツー・エンドのプロセスを示す時には、例えば、"ワークフロー “や “ケース・マネジメント" など、別の用語が使われることも多いです。注文の承認など、人間が行うタスクもあれば、商品の受け取りなど自動化された処理もあります。また、サプライヤー層への請求書の作成と支払いなど、記録システムにアクセスするタスクも存在します。
ローコード/ノーコードの機能は、ドラッグ・アンド・ドロップによる簡単な操作から始まり、プロセス・フローの実行に至るまで、操作が簡単です。
ワークフローやビジネス・プロセスの管理プラットフォームは、長い間モデル駆動開発 (model-driven development, MDD) をサポートしてきました。
これは要するに、ローコードによるモデリングと実行のことで、まずタスクがどのように構成されるべきかを図示し、ローコード/ノーコードで UI ポータルを開発し、その後実行できるよう配布するのです。
アプリケーションが配布されると、さまざまな関係者が相互分析を通じて、アクティビティのパフォーマンスを監視できます。
- ローコード/ノーコードによる統合とレガシー/ERPのモダナイズ:レガシー・アプリケーションは、記録システムです。サプライチェーンのような複雑な環境では、サプライチェーンの複数のアプリケーションをサポートするために、多数の記録アプリケーション・システムやデータベースが関係していることがよくあります。
サプライチェーンを最適化するためには、このようなレガシー・アプリケーションの統合・カスタマイズ・モダナイズを促進し、自動化することも欠かせません。
どんなサプライチェーン戦略でも統合は必須です。ローコード/ノーコード・ソリューションを利用することで、レガシー・アプリケーションの統合を加速させることができます。
これには、アプリケーション・プログラミングのインターフェース (API) 管理から、サプライチェーン関係者のセキュリティや可視プロトコル、さらに複数のアプリケーション間のデータ・モデルの統一も含まれます。
一貫したデータアクセスと更新を行う統合オーケストレーションにより、開発・配布が容易になります。さらに、レスポンシブでプログレッシブな UI とワークフローのビジネス・ロジックを活用することで、特定のサプライチェーンのシナリオに合わせたソリューションを拡張・カスタマイズでき、実質モダナイズを加速させることが可能です。
結論
サプライチェーンは多くの課題を抱えており、Covid-19 のパンデミックによって、グローバル・サプライチェーンの脆弱性が露見されました。"通常" のサプライチェーンでも、トレーサビリティ (追跡可能性) や非効率な運用という課題がすでに存在していました。
このような弱点は、パンデミックのような、予期せぬ外的要因により簡単に表面化します。実際、経済に壊滅的な影響を与える可能性のあるサプライチェーンの混乱要因は、他にも数多く存在します。例えば次のようなものが考えられます。
- ベンダーの国内の問題
- 気象条件
- 燃料価格の高騰
- 政治的混乱
- 労働組合との紛糾
- 供給に悪影響を与える M&A
上記は一部で、この他にも要因は存在します。
ローコード/ノーコードは、サプライチェーン最適化に対応できる新たな革命です。最新のサプライチェーン・ソリューションの構築・変革を加速させるためには、追跡の可視化や追跡履歴が必要となりますが、これらの課題に対応できる、ローコード/ノーコードの 3 つの補完的機能をこのブログで紹介しました。
これは、バリューチェーン(価値連鎖)内だけでなくバリューチェーン全体を包括するものです。以下のような機能がサプライチェーン最適化の中心となります。
- 最適化されたオンタイムの在庫管理
- サプライヤー層を越えた可視性と追跡可能性
- リスクの軽減・緩和のためのコラボレーション
- サプライヤーの変更、企業内および企業間のエンドツーエンドのプロセスやアプリケーション接続の容易性
これらをどのように行っていけばよいのでしょうか? 実用的なケーススタディや事例などはあるのでしょうか?
この質問に対する明確な答え、さらにローコード/ノーコードを使ってこれらの目的を達成する方法の詳細を知りたい方は、 LANSA にお問い合わせください。