基幹システム刷新の考察|第二回 基幹システムを活かしたまま変えた─東郷製作所・堀川産業が示す現実解

2026年7月22日


「第三の道」は、実際にどんな形で動いているのか

前回、「現状維持か全面刷新か」の二択を超えた選択肢─既存資産を土台に、段階的に新技術を積み上げていくアプローチ─があることを示しました。しかし「本当にそれで変えられるのか」という疑問は残るはずです。

今回は、その問いに答える2社を見ていきます。業種も規模も異なる東郷製作所・堀川産業が、既存の基幹システムを活かしながら何を変えたのか。「何を残し、何を変えたのか」という視点で整理します。

2社に共通しているのは、既存の基幹資産をいきなり捨てるのではなく、それぞれの課題に応じて段階的に手を入れてきた点です。IBM i(製造業・流通業の基幹系に広く使われているIBM製のプラットフォーム)という土台を共有しながら、着手のきっかけも、取り組みの段階も、それぞれ異なります。


東郷製作所─開発の工数を変え、組織のかたちも変えた

残したもの:1985年頃から続く基幹システムと2万近くのプログラム

創業140年以上のバネメーカーである東郷製作所(愛知県東郷町)は、1985年頃から続く基幹システムを今も運用しています。総プログラム数は2万近く。9割以上の部署が利用し、生産から営業・経理まで、会社の業務を支える中核です。

このシステムを捨てることは選びませんでした。その上でどう変えるか─それが出発点でした。

変えたもの:開発・保守の仕組みと、組織の動き方

2012年からWebシステム開発を始めましたが、HTML・CSS・JavaScriptをフルコーディングする方式は、工数の増大と品質のばらつきという課題を生みました。「他の人が開発したシステムが保守できない」という属人化の問題も現れていました。

この状況を変えるために導入したのが、Visual LANSA(HTMLやCSSの手書き中心の開発負荷を抑えながらWebシステムを開発できるLANSAのローコード開発基盤)です。2021年の導入後、画面開発で80%ほど、JavaScript部分で40%ほどの工数低減を実現しました。書き方が統一されることで属人化・不具合も低減し、保守にかかる負荷も下がりました。

選定にあたって重視したのは、既存のIBM iプログラムとの親和性でした。もともとRPGエンジニアが社内にいたため、追加で習得が必要なスキルはLANSA言語のみ。動作環境もIBM i上に一式そろう仕組みだったことも、導入の後押しになりました。

組織も変わった

開発・保守の変化だけではありませんでした。2023年には社内DXを推進する「デジタル推進部」が発足。さらに2025年には、トヨタ生産方式(TPS)に基づく改善活動を担う部署と統合し、「TPSデジタル推進部」となりました。

IBM i技術者6名の平均年齢は現在30歳ほど。この10年で世代交代が進んでいます。部署をまたいだ業務改善の取り組みが進む中、「部門間にあった壁が少しずつ薄くなってきた」という変化も生まれています。

導入の効果スライド:工数の低減(HTML/CSS比80%減、JS比40%減)と品質向上(属人化・不具合低減)の成果
開発の問題スライド:開発・保守工数の増加による開発速度低下と、コードのバラツキによる品質低下の課題
LANSA導入時の目標と選定理由スライド:工数削減目標と、IBMi親和性・スキル習得・サポート体制による採用理由
2012年のWeb開発経緯スライド:5250エミュレータの課題と、会議室予約・生産実績入力システム等のフルコーディング事例


堀川産業─現場の「1時間」を生んだ、オンライン化の積み重ね

残したもの:IBM iと内製化の体制

埼玉県草加市のエネルギー事業会社・堀川産業は、1971年のシステム/3導入以来、半世紀以上にわたりIBM i系の基盤を活用してきた企業です。24時間365日の安定稼働が求められるガス事業の特性上、この基盤はなくてはならない存在です。

開発は内製。情報システム部9名が、RPG IV・CLを用いてシステムを構築・保守してきました。この内製体制は維持しました。変えたのは、現場の運用手順でした。

変えたもの:2台持ちとオフライン運用の解消

課題は現場の道具にありました。ガス検針・灯油配送に携わる現場社員は、老朽化が進んだハンディターミナルとiOSデバイスを別々に持ち歩く「2台持ち」の状態が続いていました。

そのハンディターミナルはオフライン運用が前提で、データの送受信にはクレードル接続が必要でした。送受信は1日1回しかできないため、現場での入力内容がすぐに事務所に届かないという課題も生じていました。ここにインボイス制度への対応が重なり、端末の抜本的な見直しが必要になりました。

選んだのが、iOSデバイスとIBM iをリアルタイムで連携させるLANSA製品「LongRange」による内製開発です。情報システム部の担当者1名が、株式会社ランサ・ジャパンのプロジェクトサポートを活用しながら1年8か月をかけて開発。iOSデバイス1台でインボイス対応を含む現場業務を完結できる仕組みを実現しました。外部委託ではなく内製にこだわったのは、長年培ってきた業務知識を開発プロセスに反映し、保守も自社で完結させるためでした。

現場に生まれた変化

LongRangeの導入によって、現場社員一人当たり約1時間の作業削減が実現しました。

大きな効果があったのは、夜間のマスターデータ作成作業がなくなったことです。以前は毎晩、翌日の業務に必要なハンディターミナル用のマスターデータを情報システム部が作成し、クレードル経由で転送するという作業が発生していました。常時オンライン化の実現によってこの作業が不要になり、情報システム部の管理業務も軽減されました。

常時オンライン化が実現したことで、現場での入力データが即時に反映されるようになりました。検針・配送の結果が事務所にリアルタイムで届くため、お客様からの問い合わせへの対応も改善しています。

データ送受信に関わるトラブルもほとんどなくなり、作業が止まりにくくなったことも現場から評価されています。

堀川産業の導入のねらいスライド:LongRange導入によるiOSデバイス活用、QRコード読み取り、現場の作業効率化
堀川産業の採用背景スライド:インボイス制度対応、外部開発費用の高額化、ハンディターミナル老朽化と2台持ちの課題
堀川産業の採用の決め手スライド:旧式ハンディからiOS(LongRange)への移行、常時オンライン化と端末1台統合
堀川産業のシステム開発指針スライド:旧端末のGUI継承、直感的な操作ルールによるユーザーの移行負担軽減


2社に共通すること─何を「残し」、何を「変えた」のか

業種も規模も異なる2社ですが、共通していることが一つあります。IBM iという基幹の土台を捨てなかった、という点です。東郷製作所は、2万近くのプログラムと40年続くシステムを資産として活かし、その上に新しい開発手法を重ねました。堀川産業は、24時間稼働を支える内製体制を維持しながら、現場の道具を最新にしました。いずれも数値で変化を確認できる段階にあり、「動かした結果」が数字として表れています。

「全部変えなければ前に進めない」のではなく、「今あるものを土台に、変えられる部分から一段ずつ」─この積み重ねが、2社に共通するアプローチです。そして着手の起点も、いずれも「目の前の課題への応答」でした。属人化・品質問題(東郷製作所)、老朽化端末とインボイス対応(堀川産業)。大きなビジョンより先に、現実の課題がありました。

読者の皆さんの会社でも、似た課題はないでしょうか。自社に重ねられる部分が、この2社の中にあるはずです。


次回:基幹システムの刷新にAIはどのように役立つのか?

第3回では、「基幹システムの刷新にAIはどのように役立つのか?」について考察します。

ソフトウェア開発において、AIの導入が進んでいます。しかし、新規のシステム開発や最近のスクリプト言語を用いた軽量な開発とは異なり、膨大な既存アプリケーション資産を抱える基幹系開発では、まだその取り組みを注視している段階です。「既存資産という土台」を持つ企業が、どのようにAIの活用を推進していけるのか?ソフトウェア開発におけるAIの有効活用という視点から、その解を探ります。

連載記事-第一回:「2025年の崖」を越えた今─基幹システムを持つ企業は、AI時代にどう向き合うか

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