基幹システム刷新の考察|第一回 「2025年の崖」を越えた今─基幹システムを持つ企業は、AI時代にどう向き合うか


「2025年の崖」は終わっていない─今も続く経営課題

「2025年の崖」という言葉を、一度は耳にされたことがあるかもしれません。

2018年に経済産業省が発表したDXレポートで示されたのは、老朽化・複雑化した既存システムへの警鐘でした。企業が十分に対応できないままだと、2025年以降に大きな経済的損失が生じるという試算です。

2025年はすでに過ぎました。つまりこれは「いつか来るかもしれない未来」の話ではなく、今現在の経営環境そのものになっています。

白書等で示されるように、企業のIT予算の多くが既存システムの維持・管理に割かれているという状況は今も続いています。2025年に発表されたDXレポートの総括でも、レガシーシステムが残る企業はいまだ60%超という結果でした。「課題は分かっている。でも動けない」─それは、あなたの会社だけの話ではありません。

登壇者と会場・登壇スライドが同時に写る写真
経営課題として問い直す「2025年の崖」

分かっていても動けない、その構造的な理由

なぜ、課題を認識していても動けないのか。そこにはいくつかの構造的な壁があります。

システムのブラックボックス化。 長年使い込まれた基幹システムは、変更履歴や仕様書が断片的なまま巨大化し、中身を誰も完全には把握できなくなっています。「触ったら何が起きるか分からない」という恐れは、根拠のない臆病ではなく、現場の経験に基づいた判断です。

現場業務との密結合。 受注・在庫・生産・会計、それぞれの業務フローに合わせて何十年もかけて作り込まれたシステムは、業務そのものと不可分になっています。「刷新する」とはそのすべてをいったん白紙に戻すことを意味し、現場の混乱リスクは無視できません。

全面刷新のコストとリスク。 再構築やパッケージ移行を試みた企業の中には、「思ったより高くついた」「移行後に使い勝手が落ちた」という経験を持つところも少なくありません。

後継者不足と人材難。 基幹システムを長年支えてきたベテランが引退を迎える一方で、後継者の育成・確保は難しくなっています。技術スキルの継承だけでなく、業務知識の継承という問題でもあります。


「現状維持か、全面刷新か」は本当に二択なのか

「このまま使い続けるか、いっそ全部入れ替えるか」─多くの企業は、この二択の間で止まっています。

しかし、その前提を疑うことが出発点になります。

既存の資産を否定せず、その上に新しい技術を段階的に載せていく、という選択肢があります。基幹システムを土台として活かしながら、Webアクセス、モバイルUI、外部システムとのAPI連携を少しずつ整備していく進め方です。一度に全部を変えなくていい。若手でも扱えるモジュールから始め、業務の改善を積み上げていく。

こうした「第三の道」を実現するための選択肢の一つとして、LANSA(ランサ)があります。IBM i の資産を活かしながら、Web・モバイル・API連携へ段階的につなげる開発基盤です。既存システムを捨てずに次の層を重ねる考え方(LANSA Way)を実践してきた企業もあります。

この考え方を具体的に検証できる議論が、LANSA Forum 2025で展開されました。製造業やエネルギー事業などの企業が、既存資産を活かしながら開発効率や組織の在り方をどう変えたのか─その実例が示されました。「基幹を捨てずに変える」ことは、理念ではなく、実際にやってみた会社の話として語れるようになっています。

「現状維持か全面刷新か」という二択は、唯一の問い立てではありません。今ある資産を土台に、段階的に変えていく道があります。

脱IBM i(再構築・パッケージ導入)における主なリスクと課題の比較図
脱IBM iにおける「再構築」と「パッケージ」の課題

「現状維持/全面刷新/既存資産を活かす第三の道」対比図
壊さず、活かして、つなぐ


AI時代に、既存資産をどう活かすか─
開発プロセスの変化を整理する

「AI時代だから、システムを一新しなければ」という声があります。しかし、AIと既存資産の関係は、そう単純ではありません。

AIは現在、既存のコードやシステムを分析し、業務ロジックを解釈する手段としても活用されるようになっています。大量の過去コードを読み込んで仕様を整理する、API化すべき機能を特定する、開発者の意思決定を支援する─こうした活用では、既存資産は「ゼロから作り直す対象」ではなく、人がAIの支援を受けながら理解し、次の形へ変換していく素材として価値を持ちます。

重要なのは、AIが人の判断を代替するのではなく、人が判断しやすい環境を整える道具として機能することです。開発者や情シス担当者がプロセスに関与し、AIの出力を確認・修正しながら進める前提があってこそ、既存資産は新しい技術と共存できます。

AIを「古いシステムを一掃する破壊力」として見るか、「人が既存資産を次の世代に渡すための変換力」として見るか─この視点の違いが、投資判断を左右します。具体的な開発プロセスの変化や実例については、第3回で取り上げます。


この連載が問う3つのテーマ─全3回の地図

本連載は、次の3回構成で進みます。

役割テーマ
第1回(本記事)問題整理「2025年の崖」を越えた今、基幹システムを持つ企業はAI時代にどう向き合うか
第2回現実の証拠東郷製作所・堀川産業─既存資産を活かした2社の現実解
第3回未来の本筋ソフトウェア開発プロセスにおけるAI活用─変わる開発の形と、残る人の役割

各回は単体でも読めますが、3回通して読むと「なぜ動けないのか」から「どう動くか」「AIをどう使うか」まで、一本の線がつながります。


次回:「動いた2社」が見せてくれること

第2回では、業種も規模も異なる東郷製作所・堀川産業が、既存の基幹システムを活かしながら何を変えたのかを具体的にお伝えします。成功事例として美化するのではなく、着手の経緯・現場の変化・今も続く課題を含めてご紹介します。「自社に重ねられる一社」が見つかるはずです。

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